秒針が進む度に、目が冴えていく気がした。瞼は重いのに、意識がはっきりとしていく。30分前、欠伸を3回ふかしたところで、灯りを消しておくんだった。後悔した。

 

このままじゃあ埒が明かない。そう思って、一先ずベットから抜け出して、キッチンへ向かった。もう春だというのに、朝を待つ部屋はしっかり夜の冷たさを纏っていて、体が少し震えた。

 

 冷蔵庫から牛乳、棚から純ココアと砂糖、小さめのマグカップを用意して、先日買ったばかりの小鍋を用意した。

 

「料理は形から入ると楽しいんだよね」

 

 得意げに笑っていた姿を思い出して、冷えた体がすこし解れた。ココア粉と砂糖を適当な量小鍋に入れ、ゆっくり牛乳を注ぐ。ねり飴くらいの固さになったら、弱火でそれを温め、また少しずつ牛乳を注ぐ。確か、そんな感じだったと思う。甘い香りが鼻の奥をついて、口元が緩んだ。

 

 ただ、完成したそれは、以前飲んだホットココアとは全くの別物だった。異様に甘ったるく、それになんだか粉がダマになっているような気もした。僕はただホットココアが飲みたかったのではなく、あの夜に飲んだホットココアが飲みたかったのだ。ただ、残すと翌朝には捨ててしまうだろうから、頭の中で乳牛様を思い浮かべ、感謝しながら完飲した。

 

 無理やり流し込んだココアのせいか、余計に眠気が遠ざかってしまった。

 

「ココア、上手く出来なかったよ」

 

 そうメッセージを送ろうとしたが、手が止まった。時計の針は午前3時を知らせている。明日また言えばいい、そう思った。

 

 煙草に火をつける。惰性で毒を吸い込んで吐く。煙が少し目にしみて、慌ててメガネをかける。何年喫煙者をやっているのだか。毒された肺が笑ったような気がして、いつもより深く吸い込んで吐いた。

 

 きっともうこのまま眠れずに朝を迎えるのであれば、夜は大切に過ごそう。読みかけの本を読もうか。好きな歌を聴いて。そういえばこの前買った漫画をまだ手に取っていない。腐りかけた食材を蘇生しなくては。声が出るようであれば少し歌なんて歌ってみるか。練習している曲だって弾けるかもしれない。

 

 そんなことを考え、火種を潰した。まだ日が昇るまで長い。明るくなって、怒りながら笑う姿が見れる様に、おはようを口に含んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めっちゃ前の。前すぎて前。自分のことみたいに書いてるけど、僕はホットココアだけは作るの上手いから、これ誰。誰と誰の何。教えてみて。